子猫の咳の原因は?・・・肺に寄生する虫『肺吸虫』

オークどうぶつ病院けやき 副院長の前谷です。

昨今はコロナウイルス感染コントロールのためのイベント自粛で、私たちが参加する勉強会も全て中止になる時代で…

しかし昨夜は、毎年春にあるロイヤルカナンさんのシンポジウムがウェブでライブ配信となりましたので、自宅で約4時間みっちりと勉強させていただきました。

いつもはバタバタ博多駅まで行くのですが、私たちにもついにテレワークです(^_^;

自宅でゆっくり視聴できて、夜遅くに帰宅しなくて良いので、これはこれで良いもんですね。

さて、今回のブログは、先日よりお越しの子猫ちゃんのお話です。

 

生後約半年の子猫ちゃんが「咳をする」ということで来院されました。

しつこい咳が出る以外は元気で食欲もあり、とても活発な猫ちゃんだそうです。

一般的に猫ちゃんの咳の原因は、猫カゼによる感染症やアレルギー性気管支炎(猫喘息)などが有名です。

その他にも心疾患や肺や気管支の腫瘍など様々なんですが、カゼも引いてないこんなに若い子猫の咳は珍しいなぁというのが第一印象で。。。

 

胸の横向きの写真です。○のところには、しこりがうつっています。

 

レントゲン検査を行うと、全体的に肺野が汚い。(あえて専門的ではない表現で書きますと)

○で囲んだ部分は、小さなしこりが肺にできているように見えます。

 

うーん…

高齢猫であれば、乳がんが転移したりしてできる転移性腫瘍を疑う所見なんですが、そんなわけないですし。

獣医師国家試験を受けてから十年以上経つ身ですが、なんとなく肺に寄生する寄生虫がいたような記憶を絞り出し、うんち検査も行ってみると

 

 

出ました!卵です!!!

これぞ肺に寄生する虫『肺吸虫』の卵です。よく見ると下側に蓋がついている。この蓋が肺吸虫の卵の特徴です。

子猫を苦しめていた咳の原因を、うんちの検査で診断するというなんとも不思議な体験をしました。

 

ベーリンガーさんの「犬と猫の寄生虫アトラス(非売品)」よりお借りしました。

 

レントゲンにうつっていた「しこり」は、肺吸虫の虫が入った袋(虫囊)でした。

この肺にいる親虫が卵を産卵すると、卵は気管を逆上って胃に入り、便から排泄されるのですから不思議ですね。

 

ベーリンガーさんの「犬と猫の寄生虫アトラス(非売品)」よりお借りしました。

 

不思議な生き物「肺吸虫」の生活環といわれる図を、ベーリンガーさんの「犬と猫の寄生虫アトラス(非売品)」よりお借りしました。

猫ちゃんにどうやってこの寄生虫が入って来るのかというと、川にいる淡水のサワガニやザリガニなどを食べて感染するのです。

ちなみに人間にも感染する寄生虫ですが、関東ではサワガニを食べる習慣がある地域があり、サワガニを食べて感染する事例が多いとか。九州ではイノシシを非加熱で食べて感染してしまう事例が多いとのことですから、O院長には十分に加熱するように言っておかねば。。。

 

それにしてもここは赤坂ですよ。福岡市中央区の都会のど真ん中ですから、なんでそんな寄生虫が!?

これはあとで飼い主さんに聞いた情報ですが、この猫ちゃんは、糸島市の雷山の山の中で保護したそうです。なるほど、納得ですね。

山の中の放浪生活で、子猫とはいえカニなんかを食べて食いつないでいたんだろうなぁと想像します。

 

肝心の治療はというと、通常の駆虫薬では落ちませんので、ドロンシットという注射薬で治療を行います。

 

 

注射後40日後のレントゲン写真です。

先ほどの治療前の写真と比べてもらうとよくわかりますが、○の部分にあったしこりはなくなり、全体的に汚かった肺の病変もきれいになりましたので、これで治療終了ですね。

飼い主さんの話では、あれだけ困っていた咳が注射翌日からウソのように止まったそうで、とても驚いておられました。

 

これからは、猫ちゃんの保護した場所なんかもよく聞いておかないといけないな〜と思った今日この頃でした。