オークどうぶつ病院けやき 副院長の前谷です。
今回はガンに対するレーザーを使った治療のご紹介をしたいと思います。
昨年レーザー治療器を導入しましたが、様々な使い方ができる機械で、体表のイボを蒸散したり、レーザーメスで切除したケースなどは過去にご紹介していました。
今回は、一般治療では治療が困難な深部の悪性腫瘍に対して、QOL改善を目的にレーザーを照射したケースです。
ガンに対する温熱療法とは
ガンに対する治療法の1つに、『温熱療法(ハイパーサーミア)』という治療法があります。
正常な細胞は、温度が上昇すると血管を拡張させて血流を増やし温度を下げて守ろうとする働きが作動します。
これに対してガン細胞は、温められても血管を拡張して熱を逃がすことができないので、「熱に弱い」と言われます。
その性質を利用して、ガン付近を42.5℃以上に温めることで、ガン細胞のタンパク質やDNAを変性させ破壊→がん細胞の数を減らそうというのがガンに対する温熱療法(ハイパーサーミア)です。
今回ご紹介するレーザーを外から照射する『マイルドレーザーサーミア』という方法は、ガンの温度を40~42℃に温める治療です。
温度が低めなので、上記温熱療法と同様の効果は望めませんが、温度を上げると免疫細胞が活性化されると言われますので、自身の免疫細胞を活性化させ、自分自身の力でガンを制御しようという治療法です。
温熱療法と比べるとガンを殺す力は弱くなりますので、生活の質QOLの改善やガンの増殖を抑えてガンをおとなしくさせる休眠療法が目的となります。
実際に使用したケースをご紹介
例えば肺に腫瘍ができた猫ちゃんのケースをご紹介します。
胸の中に腫瘍ができていて、空気の通り道である気管を押しつぶしてしまっており、安静にしていても呼吸がとても苦しい状態でした。
抗生物質やステロイドといった対症療法はすべて行いましたが、まったく症状は改善しませんでした。
CT検査でも、空気の通り道・気管が最も細いところでは5ミリしかありませんので、かなり息苦しいことが伝わります。食べ物の通り道・食道も押しつぶされていそうです。
この場合、ガンに対する標準治療、いわゆる3大治療は可能でしょうか?
①外科手術は場所的に心臓や大きな血管が近く困難な場所でした。
②抗がん剤も、リンパ腫以外の固形ガンに対しては、単独では期待薄です。
③唯一可能性があるのは放射線治療でしたが、毎回全身麻酔を必要とする動物の放射線治療は、その麻酔自体がリスクになります。特に今回は呼吸がとても苦しいので全身麻酔が命取りになる状況です。
現実的にはどの治療も行うことができない状況でしたが、有効な治療がないとお話するのは本当に心苦しい…何かできることはないものか…
そういうった思いで+αの治療オプションを求めて、昨年レーザー獣医学研究会に参加してレーザー治療器を導入しました。
今回、飼い主さんにご提案して行ったのが、これまでお話してきた「マイルドレーザーサーミア」という治療法です。
椎間板ヘルニアなどの痛みを軽減する目的でも使う、ロータリーハンドピースという先端(レーザーファイバーがグルグルと回転しながら照射する)を用いて週1回、30分間患部にレーザーを照射します。
表面やけどを防ぐために、冷やしたジェルパックをあてながらレーザーをあてます。
麻酔も必要なく、オーナーさんも立ち合いで一緒にさせていただいたので、呼吸が苦しい猫ちゃんでも嫌がらずじっとしてくれました。
残念ながら、2回治療を行った後に突然の呼吸困難で亡くなってしまったのですが、飼い主さんからは「楽そうになって食欲も出たので、やって良かったです。」と仰っていただけました。
肺腫瘍では長期生存したケースや、他にも肝臓や脾臓の腫瘍でも腫瘍が縮小したり効果があったケースなども報告がありますので、少しでもガンで苦しむ患者さんのQOLの改善にお役に立てればと思っています。